実は20年近く前に、私は友人に誘われて黒柳先生の個展に伺ったことがあるのです。
高校時代、趣味で油絵を描いていたというその友人と同じ高校に黒柳先生がいたそうです。
美術部の部長で当時から絵がうまかったのはもちろん、その天才的なオーラは全校生徒が認めるところだったとか。
たしかにその伝説を裏付ける凄い絵が個展会場にも飾られていました。名古屋市内の某有名画廊でした。
ものすごく惹かれる絵があって、友人にそれを告げると「画廊を通さずに本人から買う」という方法を内緒で教えてくれましたが、それでも一介のOLに買える値段ではなく涙をのんであきらめました(今でももちろん手が出ませんが)。
あの、数多くの伝説を持つ天才画家、黒柳先生の授業を見学できるとはなんという僥倖でしょう。マンガしか描けない私は、先生から直接デッサンの手ほどきを受けられず、ちょっと残念でしたが。
けれど今回、黒柳先生の授業風景を見ることができて、「さすが!」と思う点がいくつかありました。
まず、受講者数が多いというせいばかりでもなく、教室全体に活気があったことです。
30人近くの人が各々、デッサンをし色付けまでするのですから、もっと散漫になっても仕方ないと思いますが、
作業に集中する時間、先生の話を聞く時間、その切り替えが見事でした。
先生の指導は時に筆を使って実践的に示したり、身ぶり手ぶりやジョークも交えて講義したりと情熱的でひきこまれます。
皆さんが各々の作業に集中されている時も、先生は少しも休まず、教室を歩き回り、必ず全員の絵を見て、的確なひとことをかけられます。
それも決して上手下手の評価はせず、その人の個性を引き出すための具体的な方法をアドバイスする、この辺りに人気の秘密がありそうです。
この日は各々が自宅から持ち寄ったものや、教室にある置き物をスケッチして、色付けしました。「線の味を生かす」というテーマがあったようです。
「鉛筆には鉛筆の仕事があり、絵具には絵具の仕事がある。鉛筆でするデッサンは、色を塗るための下書きではない。
線の仕事が生きる絵具の扱い方を知ってもらいたい」と黒柳先生。
講座の最後に「いつかこんなレッスンもやりましょう」と皆さんにお話されていたことが、とても印象的でした。
皆で20分ほどのビデオを見るのだそうです。ゆったりしたスピードですが、一度しか見ない。
そして見たものを、16コマに区切ったクロッキー帳に次々と描いていく。
何枚描いてもいいそうですが、このレッスンをやるとたいてい、皆、最後は疲れてヨレヨレになるけれど、
逆にノリノリになってそんな時にすごい線を描いたりするのだとか。
人間は同じものを見ても、頭に残った絵は違うんですね。自分の頭に残った絵を、どう表現し伝えるか。
自分の持ち味である線をどう引くか。これは絵に限ったことではなさそうです。
黒柳先生の授業はまるで芸術大学で一流の画家から教えを受けているような感覚がありました。
絵は好きでも、才能もなく努力もしなかったので、芸大なんて夢の世界でしたが、
カルチャーセンターとはまさにそういう夢の実現ができる場所だということを改めて認識しました。
(2005年6月 りん)
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